日和やオリジ等々の、絵ログや駄文を置く倉庫。
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「ノート、教科書、携帯電話、カバン、財布」
「物の名前は覚えてるんだね」
確認するように問うていくコリコに、丁寧にひとつひとつの名前で答えるのなめ。
そんな様子をタカラとがらくたサマは掃除をしながらのんびりと眺めていた。
「使い方も覚えてる?この『けいたいでんわ』とか…」
「これはこう開いて、ボタンを押すと、」
「通信機みたいなもの?」
「そう、そんな感じ」
「のなめちゃん、リコにぃと仲良しなんよー」
「仲良しというより、興味が合うのでしょう」
モップで床を磨きながらがらくたサマが穏やかな口調でタカラと話す。
そんな余人の様子を少し離れた席でジルフェオードが見ていた。
心なしか、眉間に皺が寄っているようにも見える。
無言でのなめとコリコを眺めながら、ゆっくりとした動きで手にしたコーヒーカップを
口の前まで持ちあげる。
「どうかしたの?」
がらくたサマが小首をかしげると、ジルフェオードは気が付いたように一瞬体を震わせ
なんでもない、と苦笑いを浮かべた。
「記憶喪失になる前に、何してたのか覚えてない?」
「覚えていたら記憶喪失じゃないよ」
それもそうかとコリコは頷く。
のなめは考え込むように俯いて、所持していた己の私物をにらむように見続けた。
これらの品は、のなめががらくたサマに発見された時にはもっていなかったものだ。
後でのなめが倒れていた付近のガラクタ置き場に落ちていたものをがらくたサマが
発見して、のなめに確認して彼の物だと分かった。
のなめ自身も、自分の所有物だということは記憶に残っていたらしい。
記憶喪失になる前に持っていた私物を見れば、何か記憶が戻るかもしれないと思い
食堂のテーブルを借りてそれらを広げてみたが、記憶の一部が戻るというような
そんな都合の良いことは起きなかった。
思わずため息がこぼれた。
「先生、記憶喪失が治る薬ってないの?」
コリこが何気なくつぶやく。
「そんな便利なものアタシが作れるわけがないでしょう」
医者なめるんじゃないわよ、とジルフェオードもため息をこぼす。
花祭りの後、のなめは自分が記憶喪失だということをジルフェオードに伝えた。
本来なら祭りの後、すぐに街へと変える予定だったらしいが、その話を聞いて
彼は、わざわざ煉瓦亭に残り、のなめの健康診断をし、記憶が戻るまで
手伝いをすると言ってくれた。
手伝いをしたところでジルフェオードに何の得もないのに、なぜ残ってくれたのか。
のなめには不思議でならなかったが、ジルフェオード曰く
「『ヨソビト』の記憶喪失は珍しいもの」
らしい。
「ねぇコリコ」
「うん?」
「ヨソビトって何?」
唐突に思いついたその単語を、目の前で携帯電話をめずらしそうに触っている
コリコに訊ねてみると、きょとんとした顔でのなめは見直された。
何かおかしな質問をしただろうかと、訝しげに首をひねる。
「そういえば、説明していなかったわね」
今まさに思い出したと、がらくたサマがポンと手を打った。
ごめんなさい、と口では言いつつも、相変わらず顔は無表情のままだ。
「のなめ、アンタわかりもしないでアタシの言葉に頷いてたの?」
頬杖をついたジルフェオードが、呆れたように呟いた。
「ヨソビトは別の世界から来たヒトのことを言うんだよ」
だからのなめもヨソビトだよ、とコリコは苦笑いしながら説明する。
「ヨソビトの記憶喪失は珍しいの?」
「と、言うより、ヨソビトに有事があったって言うのが珍しいかな」
「神様のお客さんだものねぇ」
ジルフェオードがコリコの言葉につないで、ポツリとつぶやいた。
かみさま。
のなめはぽかんと口を開けて、ジルフェオードのつぶやいた単語を反復する。
「のなめのいたところには、神様いないの?」
「多分、いなかったと思う?」
「どうして疑問形?」
「もしかしたらいたかも……、と思って」
「エヴェルブ。この世界には『創星ノ戯心』と呼ばれている神がいるのよ」
がらくたサマの言葉が、コリコとのなめの会話の間に、ストンと入ってきた。
2人がそろってがらくたサマを見れば、彼女はモップで床を磨きながら
何でもないように言葉を口にする。
「ヨソビトはその神が直々に招いた客であるため、神自身がその客を守っているそうよ」
「守られているから、ヨソビトの記憶喪失は珍しい?」
「そういうこと」
唸るように呟いたのなめの言葉をジルフェオードが肯定する。
「もっと言うなら、怪我することも珍しいのよ」
「トラブルに巻き込まれないって話だもんね」
「でものなめちゃん、キオクソウシツなんよ?」
タカラが大きく手を上げて主張すれば、コリコもジルフェオードも
考え込むよう唸り、俯いてしまった。
「神の加護がなかった」
がらくたサマがポツリと呟くと、考え込んでいた2人はさらに唸った。
「ありえるのかな、それ」
「でも実際、ここに記憶喪失者がいるのよねぇ」
コリコとジルフェオードは、疑惑に満ちた目でのなめを見る。
何とも言い難い雰囲気がその場に落ちる、
「タカラ思ったんよ!!」
よりも前にタカラが勢いよく手を上げた。
「ファイちゃんに聞いたら、何かわかるかもしれないんよ!!」
「あ、そうか、それもそうだね」
「そうよ、ファイがいたじゃない」
それだ、と考え込んでいた2人はタイミングよく頷いた。
ファイという人物に心当たりのないのなめは、どう反応をしていいのかわからず
困ったようにがらくたサマへ視線を向けた。
それに気付いたがらくたサマは、視線を一瞬そらした後
タカラの頭をポンポンとなでた。
「なら、お願いしようかしら」
何が、お願いなのだろうか。
話の展開についていけないのなめは、釈然としない気持ちを抱いたまま
大きく呼吸をして、息を吐いた。
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