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日和やオリジ等々の、絵ログや駄文を置く倉庫。
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オリキャラで短い話を書いてみる。
前の話『空の色』シリーズ → 『土の音』シリーズと、若干つながっています。



 
 
 
 
ファイという人物に会いに行けばいいと決まった後、がらくたサマはタカラに
花祭りで使った酒の湧く壺をファイに返してほしいとお使いを頼んだ。
タカラは喜んで引き受けたが、如何せんタカラの背丈では大人でも一抱えある壺を
持って歩くのは危なく、結果、話し合っていた食堂に
タイミングよくやって来たセイランに、荷物運びを頼むことになった。
セイランは特に嫌な顔も見せず、笑顔で荷物持ちを引き受けた。
 
 
「ファイちゃんは神官なんよー」
 
煉瓦亭でも聞いた、ファイちゃんと言う人物について、道中タカラに質問すると
タカラはくるくると器用に回りながら、楽しそうにのなめに語った。
 
「神官とは、創星ノ戯心の言葉を直接受けることのできるヒトのことでござる」
 
大きなツボを抱えながら、タカラの前を歩いているセイランが
補足するように説明した
 
相変わらず聞き覚えのない単語に、のなめはどう反応すればいいのか悩んだ。
記憶喪失であるにもかかわらず、馴染みの全くない言葉ばかりだった。
 
「あぁ、あそこでござるよ」
 
集落とは逆の方へ進んでいると、セイランがガラクタ山の一角を指さした。
示された場所には、木製の簡素な扉が一枚ついた、小屋らしきモノがあった。
扉以外は屋根から壁までガラクタで埋もれており
小屋の全体像は把握できそうにもない。
 
「ここ…?」
「そこでござる」
「ファイちゃん、タカラが来たんよー!!」
 
訝しげに扉を見ていたのなめに、セイランは朗らかに微笑み
タカラは扉を盛大にノックした。
 
バンバンと音が響く扉が、壊れてしまうのではないかと思うほど強く叩かれている。
のなめが慌てて扉を叩くタカラを止めると、ガチャンッ、という金属音のあと
扉は、ギィッ、と錆びついた音を立てて開かれた。
 
セイランが小屋の中へ入ったのを確認し
のなめも続いて小屋の中へと足を踏み入れる。
 
小屋の中は薄暗く、光源は天井に吊り下がっている大きめのランプのみ。
あたりをくるりと見回せば、そこかしこにモノが乱雑に放置されているように見えた。
視線を小屋の奥にへ移せば、そこには店でよくみられるカウンターが設置されているが
人が立っているような様子はない。
 
留守なのだろうか。
 
のなめは何気なくタカラを見る。
小屋の扉を壊すような勢いで叩いていたタカラは、薄暗い部屋の中を
あちらこちらに移動して、散々になっているモノを拾って眺めている。
 
「ファイ殿、居られませぬか?」
 
セイランがカウンターへと声をかけるが、人の気配も反応もない。
 
「いないでござる」
「鍵開けたまま留守に?」
「ファイちゃんいないんよ?」
 
「鍵開けたまま留守なんかにしないよ」
 
聞き覚えのない声にのなめは勢いよく振り返る。
のなめの後ろ、小屋の出入り口にやはり見覚えのない子供が立っていた。
黒を基調とした服に、薄暗い中でもわかる鮮やかな短い金髪に
深い森のような緑色の双眸。
手には大きなかごを持っており、中には大小様々な鉄の破片が集められている。
年の頃は十才前後の少年に見えた。
 
「ファイちゃん、こんにちはなんよ」
「うん、こんにちは。今日は何の用?」
 
花の咲くような笑顔で挨拶をするタカラに、少年も笑顔で答える。
タカラの言葉から、少年がファイという人物なのは明らかだった。
ファイの言葉に、セイランが一歩前に踏み出す。
 
「先日借りた壺を返しに来たでござるよ」
「あぁ、酒壺だね。その辺に置いておいてよ」
 
セイランはカウンターの前に、丁寧に壺を置いた。
ファイは満足そうに頷くと、かごを持ったままカウンターに入り込み
のなめ達に向き合った。
 
「それで、僕には何の用で来たんだい?」
 
ファイは首を傾げて、一同を視線だけで見回した。
ファイの緑の双眼が、のなめと視線を交わした瞬間動きを止めた。
驚いたような、呆れたような、少なくとも良い意味での
視線の交差ではなかったように、のなめには思えた。
 
「実はファイ殿にお聞きしたいことが……」
 
セイランの言葉によって、ファイの視線はセイランへと移った。
得体のしれない緊張感から解放されて、のなめはほっと息をつく。
 
「タカラ達、戯心サマのこと聞きにきたんよー」
「戯心?またなんでそんなことを……」
「実はこちらにいるのなめ殿が……」
 
セイランが余計な話を省き、要点だけかいつまんでファイに説明すると
ファイは疑わしげに、のなめをチラリと見た。
 
セイランの話は短時間で終わったが、要点は解りやすく
ファイは話を聞き終えた後、悩むように金糸の髪をぐしゃぐしゃとかいた。
 
「それで、戯心に何か変わった様子がないかって、僕に聞きに来たの?」
「左様に」
「ファイちゃんなら、戯心サマの言葉がわかるんよ?」
「まぁ、神官だから分かりはするけど……」
 
タカラの期待に満ちた目に、ファイがたじろいだ。
そして、再び疑わしげな視線でのなめをゆっくりと見た。
 
「戯心は招いた客なら必ず自らの力を用いて加護を施す」
 
――加護がないならヨソビトじゃない。
 
ファイははっきりとした口調、そう言った。
セイランの動きがピタリと止まり、タカラが首を傾げた。
 
「でものなめちゃん、ヨソビトなんよ?どうして加護がないんよ?」
「ヨソビトじゃないから。招かれざる客なんだよ、そこにいる彼はね」
「な?」
「のなめ殿はヨソビトではないということでござる」
「でもタカラ達、のなめちゃんはヨソビトだと思ったんよ?」
「確かに某ものなめ殿をヨソビトだと感じたでござるが……」
 
「ヨソビトかどうかって、どうやってわかるものなんだ?」
 
三人の会話に、のなめは恐る恐る言葉をかける。
セイランとタカラは目を瞬かせて、のなめを見つめた。
 
「ヨソビトはスポットリングの影響を受けないから、僕らには異質に感じるんだよ」
 
りんぐ?
 
のなめはまたも出てきた新しい言葉に、思わず苦笑した。
意味が解らない、という風に首を傾げると、ファイはひらひらと手を振った。
 
「要するに、僕らには君が異物に見えるってことだよ」
 
その説明は非常にわかりやすかった。
 
「まぁ、そんなわけだから、君はヨソビトのようであって、ヨソビトではない」
「では、のなめ殿はいったい何者でござるか?」
「うーん」
 
セイランの質問に、ファイは眉を寄せて悩んだ。
 
「僕は神官だから、戯心についてはある程度分かるけど
 このヒトみたいな、よくわからないヒトはわからないなぁ…」
 
ごめんねぇ、と申し訳なさそうに、ファイは頭を下げた。
悩んだ結果、答えは出なかったようだ。
セイランが、気にしないでほしい、と苦笑気味に言えば
ファイはさらにションボリと項垂れた。
 
「創星ノ戯心に異常がないこと、のなめ殿がヨソビトではないことは
わかっただけでも十分でござるよ」
「ファイちゃんに聞いてよかったんよー」
 
ありがとうなんよー。
 
タカラの御礼に、ファイは照れたように笑顔で返した。
 
「では、某たちはそろそろお暇するでござるよ」
「あ、それなら、ちょっと待って」
 
セイランの言葉に、ファイが待ったをかける。
何事かと彼を見れば、ファイはカウンターの中から
布に包まれた長い棒状のものを取出し、のなめに投げた。
のなめは慌てて受け取り、布とファイを交互に見比べる。
 
「丸腰でしょ?最近物騒だから、君も持っていた方が良いよ」
 
何が物騒なのか。
のなめは包んでいる布を、そろりと外した。
タカラとセイランは、布の中身に興味を持ったらしく、覗き込むようにして
のなめの手元を見つめる。
布の中から出てきたのは、鞘に収められた細身の剣だった。
目を見開いて、のなめはもう一度、ファイと剣を交互に見比べた。
 
「ファイちゃん、これ剣なんよ?」
「そうだよ」
「しかし、いくら物騒だからと言って、のなめ殿に剣……。
 のなめ殿は戦う術を知っているのでござるか?」
 
知らぬでござる。
 
セイランの言葉に、のなめは間髪入れず首を横に振った。
もしや剣のレプリカではないだろうか。
手に感じる確かな重さを否定し、淡い期待を込めて剣を鞘から抜いてみる。
 
ランプの明かりを受けて、抜いた剣が静かに輝く。
そっと刃を人差し指の腹で撫でると、ピリッとした痛みを感じる。
人差し指を見れば、剣をなでた部分に赤い線が浮き上がる。
 
のなめは微妙な顔をして、切れた傷口をぺろりと舐めた。
 
「ヨソビトじゃないけど、記憶が戻る予定も、元の世界に戻る予定もないんでしょ?」
 
だったら自衛はできたほうが良いよ?
 
笑顔で話すファイに、のなめは困惑した表情を浮かべ、セイランへ視線を移した。
セイランは仕方なしと、眉を下げて苦笑を浮かべていた。

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