[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
「閻魔さんに、会ってみたいですのよ」
拳を握ってきっぱりと言い放った泰山王。
一瞬の静寂。
都市王はもてなしで出された茶を一口すする。
再び静寂。
「なしテ?」
「十王の最高王にして冥府の統括者ですよ?一度お会いしたいと思うのは可笑しいことです?」
「んー……」
泰山王の言葉に、都市王は悩んだ。
普段の閻魔の様子を知っている都市王にとって、泰山王の言葉は首を傾げるモノだった。
「閻羅ちゃんに夢見てると、打ち砕かれるヨ?」
「都市王さんの知る閻魔さんは、どのような方なのです?」
「あー…それ聞いちゃウ?」
泰山の目は、新しいものを見つけた子供のようにきらきらと輝いていた。
都市王は居心地悪そうに、そんな泰山王から目をそらし、茶を啜る。
「意地悪しないで教えてくださいですのよ、トシオさん」
「意地悪というか、どう説明すればいいのカ…」
「トシオさんの思ったままを教えてくだされば良いですのよ」
「思ったままネー」
たっぷり数秒黙り込む。
「うーん…セーラー、大王?」
「セーラー…ですか?」
「もしくはイカ」
「イカ!?」
「ほんの数秒前までいた秦広王がいきなり消えて、周りが何事もなかったかのように
俺のことを”秦広王”と呼び出した時には、まぁ、ゾッとしたな」
―――で、当たり前のように裁判をこなせる自分にも寒気を覚えた。
パラパラと書類に捺印しながら、秦広王は答える。
都市王はもてなしとして出された茶を啜りながら、黙って話を聞いた。
「先代と面識のあった十王はいなかったみたいだから、あの時
十王達には何の変化もなかっただろうが、この秦広庁に勤めていた役鬼達は
今までつかえていた王がいきなり変わっても、何も変わらなかったな」
―――最初から俺が秦広王であるかのような態度で接してきた。「
だから、俺が新しい秦広王と交代したとしても、ここで行われる裁判に
何の影響も支障も出たりはしないだろ」
「けど、初江庁は支障が出るかもしれないヨ?」
―――あの泣き虫な裁判官は、きっとたくさん泣くだろうから。
秦広王の手の動きが止まり、亡者の裁判を終えていた秦広庁に一瞬の静寂が訪れる。
「くだらねぇ、面識のある十王であっても、消えていく十王のことは冥府の摂理で
勝手に忘れて、新しい十王が仕事しやすいように記憶を改ざんするんじゃねぇか」
「改ざんしてもネ、覚えてるヤツは覚えてるんだヨ」
「お前みたいにか?」
まさか、と都市王は苦笑を浮かべる。
「俺はそこまで記憶力よくねぇんダ。
いなくなったヤツらのことまで、いちいち覚えちゃいないサ」
口調は軽いものだった。
けれど、浮かべたその笑みには、穏やかな寂しさが表れていた。