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「閻魔さんに、会ってみたいですのよ」
	拳を握ってきっぱりと言い放った泰山王。
	一瞬の静寂。
	都市王はもてなしで出された茶を一口すする。
	再び静寂。
	「なしテ?」
	「十王の最高王にして冥府の統括者ですよ?一度お会いしたいと思うのは可笑しいことです?」
	「んー……」
	泰山王の言葉に、都市王は悩んだ。
	普段の閻魔の様子を知っている都市王にとって、泰山王の言葉は首を傾げるモノだった。
	「閻羅ちゃんに夢見てると、打ち砕かれるヨ?」
	「都市王さんの知る閻魔さんは、どのような方なのです?」
	「あー…それ聞いちゃウ?」
	泰山の目は、新しいものを見つけた子供のようにきらきらと輝いていた。
	都市王は居心地悪そうに、そんな泰山王から目をそらし、茶を啜る。
	「意地悪しないで教えてくださいですのよ、トシオさん」
	「意地悪というか、どう説明すればいいのカ…」
	「トシオさんの思ったままを教えてくだされば良いですのよ」
	「思ったままネー」
たっぷり数秒黙り込む。
	「うーん…セーラー、大王?」
	「セーラー…ですか?」
	「もしくはイカ」
	「イカ!?」
	
	「ほんの数秒前までいた秦広王がいきなり消えて、周りが何事もなかったかのように
	 俺のことを”秦広王”と呼び出した時には、まぁ、ゾッとしたな」
	
	―――で、当たり前のように裁判をこなせる自分にも寒気を覚えた。
	
	パラパラと書類に捺印しながら、秦広王は答える。
	都市王はもてなしとして出された茶を啜りながら、黙って話を聞いた。
	
	「先代と面識のあった十王はいなかったみたいだから、あの時
	 十王達には何の変化もなかっただろうが、この秦広庁に勤めていた役鬼達は
	 今までつかえていた王がいきなり変わっても、何も変わらなかったな」
	
	―――最初から俺が秦広王であるかのような態度で接してきた。「
	
	だから、俺が新しい秦広王と交代したとしても、ここで行われる裁判に
	 何の影響も支障も出たりはしないだろ」
	「けど、初江庁は支障が出るかもしれないヨ?」
	
	 ―――あの泣き虫な裁判官は、きっとたくさん泣くだろうから。
	
	秦広王の手の動きが止まり、亡者の裁判を終えていた秦広庁に一瞬の静寂が訪れる。
	
	「くだらねぇ、面識のある十王であっても、消えていく十王のことは冥府の摂理で
	 勝手に忘れて、新しい十王が仕事しやすいように記憶を改ざんするんじゃねぇか」
	「改ざんしてもネ、覚えてるヤツは覚えてるんだヨ」
	「お前みたいにか?」
	
	まさか、と都市王は苦笑を浮かべる。
	
	「俺はそこまで記憶力よくねぇんダ。
	 いなくなったヤツらのことまで、いちいち覚えちゃいないサ」
	
	口調は軽いものだった。
	けれど、浮かべたその笑みには、穏やかな寂しさが表れていた。
	