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「ほんの数秒前までいた秦広王がいきなり消えて、周りが何事もなかったかのように
俺のことを”秦広王”と呼び出した時には、まぁ、ゾッとしたな」
―――で、当たり前のように裁判をこなせる自分にも寒気を覚えた。
パラパラと書類に捺印しながら、秦広王は答える。
都市王はもてなしとして出された茶を啜りながら、黙って話を聞いた。
「先代と面識のあった十王はいなかったみたいだから、あの時
十王達には何の変化もなかっただろうが、この秦広庁に勤めていた役鬼達は
今までつかえていた王がいきなり変わっても、何も変わらなかったな」
―――最初から俺が秦広王であるかのような態度で接してきた。「
だから、俺が新しい秦広王と交代したとしても、ここで行われる裁判に
何の影響も支障も出たりはしないだろ」
「けど、初江庁は支障が出るかもしれないヨ?」
―――あの泣き虫な裁判官は、きっとたくさん泣くだろうから。
秦広王の手の動きが止まり、亡者の裁判を終えていた秦広庁に一瞬の静寂が訪れる。
「くだらねぇ、面識のある十王であっても、消えていく十王のことは冥府の摂理で
勝手に忘れて、新しい十王が仕事しやすいように記憶を改ざんするんじゃねぇか」
「改ざんしてもネ、覚えてるヤツは覚えてるんだヨ」
「お前みたいにか?」
まさか、と都市王は苦笑を浮かべる。
「俺はそこまで記憶力よくねぇんダ。
いなくなったヤツらのことまで、いちいち覚えちゃいないサ」
口調は軽いものだった。
けれど、浮かべたその笑みには、穏やかな寂しさが表れていた。