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日和やオリジ等々の、絵ログや駄文を置く倉庫。
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オリキャラで短い話を書いてみる。
前の話『空の色』シリーズ → 『土の音』シリーズと、若干つながっている時点で、短くないというツッコミはしないでください。

一次創作(オリジナル)なので、そういったものが苦手な方、嫌いな方は
このままスルーすることをお勧めします。


見てしまった後の苦情は受け付けません。





 


頼まれ事をしてほしいの。

昼餉を終えたころに、がらくたサマはそう言った。
昼前に荷車に集めた廃材を、集落へ届けてほしいという頼みごとだった。
このガラクタだらけの場所に、人の住めるような場所が
この宿以外にもあったという事実に多少驚きながら、首を縦に振り、了承の意を示した。

集落というからには、少なからずまとまった人数がいるのだろう。
がらくたサマに集落の場所を尋ねると首を横に振った。
いわく、説明するより覚えたほうが早いということで
案内人同行のもとで集落へ向かうことになった。

荷車の前で待つようにと言われしばらく経つと、煉瓦亭の扉が開かれた。
出てきたのはがらくたサマと、ここ数日の間には見かけなかった
流れるように長い赤い髪をした男の姿だった。

一見すればまるで、自分の知るところである忍者のような容貌をしていたが
男の額から生えている突起物――しばらく凝視してそれが角であると分かった――が
男が人間ではないことを表していた。

数日間の間に煉瓦亭であったヒトの数は決して多くはなかったが
自分と大差のない姿をしているものばかりであったため、
真っ赤な長髪を後頭部で束ね、頭に角をはやした男の姿は
一瞬、何かの仮装かと思ってしまうほど奇抜に映った。

「お初に御眼にかかります。某は鬼人のセイランでござる」
「セイラン、コレが”のなめ”よ」

のなめ、と紹介されて、軽くお辞儀をした。
不便なようで不便でない記憶喪失によって、名前を忘れた自分に
がらくたサマが仮名として名づけた名前だ。

簡単な紹介は簡単に終わった。
案内人はセイランのようだったが、がらくたサマも同行するようで、その手には
手放しているところをほとんど見たことがない銀色のシャベルと
何が入っているのか不明の一抱えほどある布包みを所持していた。

袋の中身が気になり、何が入っているのか尋ねてみたが、がらくたサマはただ首をかしげて
「なにかしらね」と、表情なく言ってのけた。

聞けばその包みはがらくたサマが用意したものではなく
この【junk Field 】のどこかにある雑貨屋の主が
集落に住む住人に届けてほしいと頼んだ品だという。

「雑貨屋と集落は、それぞれ反対方向にあるのよ」
「故に、中間位置の煉瓦亭にこういった依頼が来ることは珍しくないでござるよ」

セイランの言葉で、大まかな集落と雑貨屋の位置関係は理解できた。
が、位置関係が理解できただけであって、結局のところ、どこにあるのかまではわからなかった。
では行きましょうか、というがらくたサマの言葉に気づき、セイランが荷車の前へ向かうので
こちらは荷車の後方へと回った。


・                ・               ・


がらくたサマ曰く、集落まで荷車がなければ一直線らしいが
荷車のような大きな荷物があるときには、広い道をゆかねばならぬため面倒くさいとのこと。
ガラクタの山だらけの場所、鉄くず廃材の道なき道を越えれば確かに一直線といえるのだろう。
セイランが言うには、その一直線の途中、ガラクタの道が
いきなり崩れることも珍しくないとのことだったが。

道の整備はしないのかと尋ねれば、住む範囲がある程度片付いていれば
生活には何の支障もないとがらくたサマ。
わざわざ集落までの広い道をめんどくさいと言っているのならば
整備したほうが良さそうだと思うのは自分だけであろうか。

「のなめ殿は、集落は初めてでござるか?」

ガラクタ道の整備について悶々と考えていると、前方で荷車を引くセイランから声がかかった。
肯定を意を示して返事をすると、そうでござるか、と朗らな声が聞こえた。

「今向かっている集落は、煉瓦亭よりも多くのヒトが住まう場所でござる。
 ココの外の町よりもヒトの数は少ないでござるが、活気のある良い場所でござるよ」
「今は、祭りの時期が近付いて皆賑わっている頃よ」だ

から頼まれたのよね、とがらくたサマは小さくため息をついた。
何のことかと尋ねれば、抱えていた包みに視線を落とした。
中身は依然としてわからないが、大きさとその丸みのある包みの形から
壺か、もしくは花瓶の類ではないかと想像できる。

がらくたサマは包みの中身を尋ねた時、包みの中身がわからないような素振りを見せていたが
今の様子では中身が何かわかっているようだった。
ダメで元々、もう一度中身は何かと尋ねる。

「壺でござるよ」

答えたのはがらくたサマではなくセイランだった。

「正しくは、お酒の湧く壺ね」

セイランの言葉に付け加えるようにがらくたサマが言葉をつなげる。
壺ということは分かったが、酒が湧く、という意味は分からなかった。
いや、厳密に言えば意味は分かるのだが、果たしてそれを
意味通りにとっても良いモノかとしばし考え込んでしまった。

「のなめ殿は酒の湧く壺を見たことがないのでござるか?」
「ココの外でもそんな壺はないと聞いたわ。
 やっぱり、あの店で取り扱っているものが特殊なのよ、多分」

壺の概念が自分と、この世界とは違うのかと思ったが、二人の会話を聞く限り
どうやら壺は結局壺らしい。
がらくたサマが今手にしている壺が特殊ということなのだろう。

詳しく聞いてみると、その壺を置いておくと、空っぽだった壺の中にいつの間にか
美味しいお酒が溜まるらしい。どう聞いても眉唾物だ。
誰かが人の見ない間に酒を入れているのではないかと、二人に問うてみたが
その可能性はゼロに近いという。

というのもセイランが、酒の湧く壺の話を初めて聞いた際に
真偽のほどを確かめるため、件のツボを空っぽにして、丸一日壺の監視していたという。
ヒマなのだろうかと思いながらも、話を聞いていると壺を監視してしばらくすると
壺の中から水音が聞こえたため、覗き込んでみるとそこにはお酒が溜まっていたとのことだった。
壺を監視している間、セイランの付近には誰も近寄らなかったと
がらくたサマも苦笑気味に進言する。

「あの時は確か、1時間程度で壺にたっぷり溜まっていたかしら」
「はい。あの時は目を疑いました。本当に酒が湧くとは思ってはおらぬかったのでな」

和やかに会話する二人の歩調は非常に一定で
後ろから荷車を押す自分は必要ないのではないかと思うほど、軽快に荷車は運ばれているガ

ッタン、と小石に引っかかって、荷車が大きく跳ねる。
広い道と行っても、ガラクタが山になっていないだけで、ガラクタがないわけではない。
落ち着いたら道の整備についてがらくたサマに声をかけてみよう、そう思った。

「のなめ、壺が気になるならば、集落で準備の様子を見せてもらうと良いわ」

準備、とは祭りの準備のことだろう。
集落の人間でもない自分が、そんな大層なことに参加しても問題ないのかと思うが
セイランはからりと笑って、問題ないでござる!、と言い切った。

「ココへやってきたばかりの新参者故に、
 遠慮があるのだろうが、ここではあまり関係ないでござる」

だから気にすることはないでござるよ。
いつの間にか傍らにやってきていたセイランが、肩をポンポンと叩いてくれた。
荷車はひときわ広い道の真ん中にいつの間にやら止められていた。
目を細めて少し遠くを見ると、ここよりもガラクタの山が低い
整理されているであろう空間を目にとらえることができた。

「早くつきすぎたかしら」
「そうでござろうか、では某、集落の様子を見てくるでござるよ」

そうい言ってセイランは、誰の返事も待たずに、忍者のように素早く駆けて行き
ガラクタの少なくなっていた空間のほうへ見えなくなっていった。

「あなたも疲れたかしら?」

自分がしたことは、荷車を後ろから押すだけの簡単な作業だけ。
間違うことなき簡単な作業に、がらくたサマは自分に荷車を運ばせる仕事を
させる必要はなかったのではないかと思ってしまった。

気持ち的に疲れた顔でがらくたサマを見れば、小さく笑われてしまった。

「何事にもきっかけがあった方が良いでしょう。」

自己紹介も、集落の住人へのあいさつも。
何もないよりも確かにきっかけはあった方が良い。
反論はできず、こちらは苦笑で返すしかなかった。

 



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