[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
続きとかそんなのはない。
「私はヲリスさ。魔界のモノは、魔女と呼ぶものが多いがね」
菫色のザンバラに伸ばされた髪の毛に、くたびれてくすんだ長帽子。襟と袖にフリルのついたシャツをゆるく着込んだ男は、右手にロリポップを持ったままにんまりと笑みを浮かべた。
学校の2階の窓辺に、夕日を背にして足を組むその姿は、学園の関係者のものではないとすぐにわかった。奇天烈な服装をした、ヲリスと名乗った男は、夕日と同じ赤い対の目で、机に置かれた本を楽しそうに見据えた。
「そう警戒しないで欲しいな。私はその本を回収しに来ただけナンだから」
ヲリスの言葉が2人しか人影のない教室に、静かに響く。
数秒の沈黙。
誰が動くわけでもなかった教室で、カタリと物音がした。
掃除用具箱の箒が音でも立てたのだろうかと、窓辺から背後へと視線をずらせば、先ほどまで閉じていた本が吹き込んだ風にパラパラとページを躍らせている。
「その本は魔物を封印した本。本来こんなヒトの集まる場所にあってはいけないものナンだよ」
魔物。封印。
ゲームやファンタジーでしか聞いた事のないような言葉を連ねるヲリスに、得体の知れない気配を感じ、思わず一歩後退した。
とにかく、一秒でも早くこの場から抜け出すため、机でページを躍らせる本を乱暴に掴み取り、半ば無理やりヲリスに本を押し付け、その手に持たせると、自分の机にかけていたカバンを取り上げ肩に下げ、急いで教室から飛び出ようとした。
教室から廊下へ出るために引き戸に手をかけ、力任せに戸を開こうとした。
――ガチン。
戸は開かない。
思いもよらぬ事態に焦りが募る。何度戸を引いても、押してもとは頑なに閉じたまま。
「ムダだよ、君はもうこの魔物に目をつけられているみたいだからネ」