日和やオリジ等々の、絵ログや駄文を置く倉庫。
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「マガツミについて知りたい?」
昼餉を終え、太陽がやや傾いてきた頃、のなめはがらくたサマに尋ねた。
マガツミとはいったい何なのか。
「私はもう説明した気でいたけれど……」
のなめはがらくたサマとコリコに、マガツミというモノについて
何度も説明を受けていたが、それでも理解するには至らなかった。
何しろ記憶喪失に合わせたとしても、内容が内容のため、正しく理解できなかった。
しかし、ジルフェオードにマガツミとの関係を少しばかり話をしたことによって
再びマガツミについての興味が湧いてきたため、心苦しくはあったが
がらくたサマに再度、マガツミについての説明を求めた。
コリコに説明を求めてもよかったが、現在煉瓦亭に彼の姿は見えず
また、他の住人の姿もなく、のなめの目に映ったのは、洗濯したベッドのシーツを
物干し竿に干している、がらくたサマの姿だけだった。
忙しいだろうと思いつつも、がらくたサマに説明を求めると
嫌な顔ひとつせず、しかし表情は全く変わらず、がらくたサマは
シーツを干していた手を休めて、煉瓦亭の中へ戻ろうとした。
呆れて放置でもされるのだろうか。
のなめがそんなことを考えていると、がらくたサマは煉瓦亭の出入り口に立ち
のなめがやってくるのをきちんと待っていた。
そうだ、このヒトはこんなことで呆れたり、ヒトを放置するような人ではなかった。
過ごした時間は数日程度だったが、それでもそう思えることができた。
浅はかだった自分の考えに苦笑して、のなめはがらくたサマについて
煉瓦亭へと入っていった。
朝になれば住人が行き交う食堂には、昼餉のあとにのなめとがらくたサマの二人きり。
にぎやかな食堂と呼ばれる場所にも、自然と静寂が訪れる。
がらくたサマは一度厨房へと消えると、しばらくして
カップを二つ手に持って、食堂の一角に座っているのなめの許へと戻ってきた。
「それで、何について聞きたいのかしら?」
のなめに渡されたカップの中は、暖かなココアだった。
ひとくち口に含むと甘さが口の中に広がり、緊張していた体を柔らかくほぐした。
がらくたサマも同じように口をつけてカップを机に置く。
その時のカップの中を見てみると、カップの中はココアではなく、水のようだった。
「のなめ?」
ハッとして顔を上げると、がらくたサマは
眠そうな目をしたまま、首を小さく傾けた。
何について聞きたいのか、と問われれば、マガツミについて、と答えたかった。
しかし、がらくたサマが言う「何について」というのは
恐らくそういう意味ではないだろうと、のなめにもわかった。
問いにどう答えるべきか、乏しい知識を総動員して言葉を探す。
「今日は、良い天気デスネ」
違うだろう。
のなめは自分にツッコんだ。
自分は何故にそんなどうでもいいことを口走ったのだろうか。
「……そうね、天気が良くて…シーツもすぐに乾きそうね」
がらくたサマはのなめの言葉にノった。
発言した張本人であるのなめは、思わず苦笑した。
「のなめ、このジャンクフィールドは、他の場所よりもマガツミの出現率が高いの」
「え」
「マガツミは、不要とされたモノだから」
脈絡なく告げられた言葉に、返す言葉が見つからなかった。
気を利かせたつもりなのだろう、がらくたサマのマガツミについての説明は
一度では耳にとどまらず、すり抜けていった。
もう一度、と言えば、がらくたサマは頷いて、再度同じ言葉を口にする。
「マガツミは、不要とされたモノよ」
淡々とした、感情の変化なく漏れるその言葉に、目を瞬かせた。
「このジャンクフィールドは、この世界のあらゆる不用品がやってくる場所。
だから、不要ブツとされたマガツミも、ここへやってくる。
ジャンクフィールドの外でマガツミになってしまった場合でも、不要ブツとして
遅かれ早かれここへ運ばれてくるのよ」
「マガツミの出現率が高いって言うのは、他所からマガツミが運ばれてくるから?」
「そうね、たいがい、理性か本能のどちらか片方だけがこちらに来てしまって
もう片方は元の場所に置き去りにされていたりするわね」
一息ついて、がらくたサマがカップの水を一口飲む。
のなめも息をつき、少し冷めてしまったココアを飲む。
「それじゃぁ、もしマガツミの片方がジャンクフィールドに来た場合
外まで片方を探しに行かないといけないとか…?」
「いいえ、マガツミによる被害が出た時点で、倒してしまっているわ」
おもわず咽た。
大丈夫…?とがらくたサマが声をかけてきたため、大丈夫、と返す。
「でもマガツミは、本人が倒さない場合、一時しのぎにしかならないんじゃ…?」
「えぇ。でも、それは少し違うのよ」
「違う?」
「これを見て」
そういってがらくたサマが示したのは黒く漂う蝶だった。
よく見れば、いつの間にかがらくたサマの周りを黒い蝶が舞っている。
それらはとても異質で不気味だったが、これがいったい
マガツミと何の関係があるのかとがらくたサマを見る。
「この子たち、元々はマガツミよ」
漂う黒蝶を見て、がらくたサマは言う。
黒蝶がマガツミとはいったいどういうことなのか。
のなめが恐々と黒蝶に手を伸ばすと、漂う黒蝶の一匹がのなめの指先に留まった。
「マガツミは何度も倒すと徐々に弱っていくみたいで
そのタイミングを狙って“陣”を使えばこうして、一時的にではあるけれど
無害な陣にしてしまえるのよ」
もっとも時間がたてばまた被害をもたらすマガツミに戻ってしまうけれど。
がらくたサマが指で机を、トン、と叩くと、今まで舞っていた黒蝶たちは
一斉に霧散して消えてしまった。
「誰でもこうできるわけではないの。このジャンクフィールドでは
私だけがマガツミをこうして無害化できる。ジルフェオードの言っていた
一時しのぎというのは、こういうことよ」
のなめは目を何度も瞬かせ、次に頭を抱えたくなった。
マガツミのことを知りたいと思ったが
がらくたサマの説明に出てきた“陣”いったい何なのかわからない。
説明を求めても良いのか悩んだ末。
「陣、て…ナンデスカ」
尋ねることにした。
眠そうな目をしていたがらくたサマの目が、一瞬だけ変わった。
それは純粋の驚きのようにも見えたが、すぐに瞼が下り、いつもの
眠そうな目に戻った。
「そういえば説明していなかったわね。陣というのは……、」
そこまで言って、がらくたサマは不自然に言葉を止めた。
そしてたっぷり数秒思考。
「陣というのは、たぶん、外の世界にあるという“マホウ”“マジュツ”というモノと
同じような、特殊な能力なモノかしらね」
誰にでも使えるわけではないのよ、と付け加えられた。
“魔法”“魔術”という単語は、のなめの記憶の中に存在していた。
それらは確かに、のなめには使うことができず、また、誰でも使えるわけでもない
むしろのなめにとっては、空想の産物として記憶されていた。
そんな能力を、目の前にいる少女は使うことができるのかと、不思議に思ったが
言葉にはせず、曖昧に、納得したように頷いて見せた。
「まだ他に聞きたいことはある?」
今の話はそこで終わったようだった。
がらくたサマは首を少し傾げて見せた。
マガツミについて知りたいと言った、のなめの目的は一応果たされた。
他に彼女に尋ねたいことはあっただろうかと、のなめは思案する。
そして、ふと思い当たった。
「マガツミは、人間?」
「……ヒトであったモノよ」
「それは、」
ヒトであったものを倒してしまっても、良いというのだろうか。
一瞬、そんな考えが頭をよぎった。
他人ごとではなく、のなめ自身もマガツミなのだが、そんな考えが浮かんだ。
しかしそれがわかっていたように、がらくたサマは答える。
「被害が出ても、それを見逃せというの?
私は、そんな暢気な考えでいられるほど、優しくはない」
存在を忘れていたカップを手に取り、がらくたサマはその中身を飲み干した。
のなめもカップに視線を移す。
中身はすっかりと冷めてしまっている。
「……聞きたいことは、終わり?」
がらくたサマの感情のない目がこちらを見つめていた。
のなめはしばらく考えて、頷いた。
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色々詰め込みすぎた感が半端ない。
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